「然り」について
前の言葉を受け、何らかの返答、回答に使われる言葉です。
「さり」または「しかり」と読み、それぞれ意味の同じ副詞「さ」「しか」に、ある(在る、有る)のラ行変格活用形「あり」が付き、さらに言い易く音変化が起こった形です。
「然り」の意味
上記の副詞は、何か前に出てきた事柄を「そのように」と示す指示語の役割を果たしています。
つまり「そのようにある」とする事で、事柄を認め肯定する、「そうである」という意味を持ちます。
またそこから、「まったくその通りだ」「そのようだ」と、単なる「そうだ」よりもより強く、深い肯定を表します。
「さり」と「しかり」は意味は全く同じものの、元となる副詞は異なるものです。
よって厳密には使い分けが必要なのですが、それについては3. 項に後述します。
「然り」の言葉の使い方
この表現はやや格式ばっており、会話中というより小説や劇、詩などで、重い意味を持たせる場合によく使われます。
この場合「然り」一語で独立したセリフや鉤括弧にまとめられる事がほとんどです。
二つの読みのうち、どちらかと言うと一般的な文書に現れるのは「しかり」の方が多いようです。
これは厳密には漢文調(大まかに言って、漢文を訳したような特徴のある文体。
平治物語など)では「さり」、和文調(漢文調よりも日本語の文章に近く感じられる文体。
源氏物語など)では「しかり」を主に使う、という事に影響があるようです。
後に否定的な内容を続けたい場合、「けど」「けれども」と同じ活用で「然れど」「然れども」、さらに別の表現では「然るに(しかるに)」となります。
否定形になると、不思議な事に「されど」「しかれども」と一般的に耳にするパターンに差が現れてきます。
また、条件を表す接続詞として「もしそうでなければ」の意味で「然らずんば」という用法もあります。
「然り」を使った例文・短文(解釈)
日常会話の中からはあまり挙げる事はできませんが、文学的な例をいくつかご紹介します。
「然り」の例文1
「この冬の時代に色恋沙汰を求めるなど、という世の声も多いが、あえて言おう、『然り』と」
戦争中などで、楽しみや恋愛にかまけている暇などないという世論が大勢の中、だからこそ人を愛し、次の世代に種を残す必要があるのではないか、という主張で、戦争を描きながらもそれを批判する趣旨も含んだ、戦記もの小説に出てきそうな記述です。
「然り」の例文2
「『朝は四本、昼は二本、夜は三本の足で歩く生き物は?』『人間である』『然り』獣は重々しく答えました」
有名なスフィンクスの謎かけです。
このように人間でない超越した生き物のセリフが単なる「そうだ」とか「正解だ」では少々深みに欠けますので、こうした荘厳な場面に最もふさわしい言葉といえます。
「然り」の例文3
「春夏秋冬を幾度も経巡りて修練した。 然れど未だに功ならず」
後に否定する文章が続く例で、この場合は「されど」と読むのが一般的です。
来る日も来る日も練習に明け暮れて気付けば何年も過ぎていたけれど、目に見えた結果が出ていない、という様子であり、「されど」一語にその深い焦燥や諦念、やるせなさが滲み出ているように、読み手に感じさせる事ができます。
「然り」の例文4
「実験にはこの薬品とこの薬品が必要と。 然り、然り」
研究者が文献などを調べて、内容を確認しながら独り言で頷いている様子です。
このように、誰かが周りにいなくとも、自分の言葉の念を押す意味で使う事もできます。
「然り」の英語と解釈
最も簡単に表現するなら、“Say “Yes””とする事ができます。
その他、“indeed”も、「本当に、まったくもって、いかにも」という意味を持っていますし、動詞なら“affirm”で「断言する」、副詞では“Exactly”で「きっかり、ちょうど、正確に」を表します。