「人の悪口を言う」という表現を考えたとき、皆さんは「こき下ろす」と「こけ下ろす」のどちらを使いますか。
たった一文字違いのこの二つですが、実は意味が全く異なります。
この記事では、「こき下ろす」と「こけ下ろす」の違いを分かりやすく説明していきます。
「こき下ろす」とは?
「こき下ろす」は、漢字で書くと「扱き下ろす」になります。
「扱く」とは、本来、細長いものを手に握ったままおさえつけ、こするようにしながら手を上下に動かすことを意味します。
そこから転じて「ひどくいじめること」を意味するようになり、「下ろす」と組み合わせて「非常に悪く言う、滅茶苦茶にけなすこと」を意味する「こき下ろす」という表現が生まれました。
『あの政治家は週刊誌でこき下ろされていた』『自分の作品がこき下ろされることが許せない』といった使い方をします。
似たような意味を持つ言葉としては、「けなす」「罵倒する」があります。
「こけ下ろす」とは?
「こき下ろす」と混同して使われやすい、「こけ下ろす」という言い回しですが、実際には「こけ下ろす」という言葉はありません。
「こけ下ろす」は誤った表現ですが、似たような表現で「こけにする」という言葉があります。
「こけにする」とは、「踏みつける、馬鹿にする」という意味の言葉です。
この言葉の「こけ」を漢字で書くと「虚仮」となり、仏教用語で「真実でないこと」、転じて現代では「思慮の浅い人や愚かな人」を指します。
「虚仮」を使う表現は、他にもあります。
「こけおどし」は、「見せかけだけで中身がないこと」を意味する表現です。
「こけにする」は、「こき下ろす」と意味も似ているので、「こき下ろす」と「こけにする」が混ざって「こけ下ろす」になってしまったと考えられます。
「こけにする」は、『みんなの前でこけにされた』『人をこけにする』という使い方をします。
「こけにする」の類語には、「あざ笑う」「小馬鹿にする」「笑い種にする」などがあります。
「こき下ろす」と「こけ下ろす」の違い
上に書いた通り、「こき下ろす」は正しい表現で、「こけ下ろす」は誤った表現です。
では、「扱き下ろす」と「こけにする」の違いは何でしょうか。
どちらも人を馬鹿にする意味を持ちますが「扱き下ろす」の方がより激しく、口汚く人をののしるイメージの言葉です。
一方、「こけにする」は単純に相手の悪口を言うだけでなく、笑いものにするようなイメージがあります。
軽く馬鹿にしたり、笑いものにするような場合には「こけにする」、強い言葉で相手を悪く言う場合は「扱き下ろす」にあたります。
まとめ
「こき下ろす」と「こけ下ろす」は、たった一文字違いですが後者は完全に誤りです。
語源をたどっていくと、このような誤った表現が広まってしまったのも納得できます。
実際に誤りだと知らずに使っている人もたくさんいますが、せっかくなのでこれを機に正しい日本語を使うように心がけましょう。