「叙景」について
「叙事」「叙景」「叙情」などは、聞いたことはあるが意味がよくわからない、はっきりとは説明できない、といった言葉にあたる、という方も多いのではないでしょうか。
これらの言葉を分かりづらくしている原因は「叙」という字にあります。
この漢字は、順序を付ける、官位を授ける、といった意味のほかに、「述べる」「順を追って述べる」といった意味があります。
「叙事」では物事について述べ、「叙情」では、心情について述べます。
では、「叙景」とはどのような言葉なのかを詳しく見ていきましょう。
「叙景」の意味
「叙景」は、自然にある風景を詩や歌など、文章として書き表すことをいいます。
「述べる」という意味を持つ「叙」と、「景色」「景観」など、目に見える風景のことを示すときに使われることの多い「景」の字が熟語になっていることからもお分かりになるでしょう。
「叙景」の言葉の使い方
先述したとおり、「叙景」は風景など自然のありさまを述べることですので、歴史的事実や心情でなく、風景について書かれた文章になります。
また、基本的には文章表現について使われる言葉になっていますので、音楽や絵画などの分野ではあまり使われない、という点も覚えておくといいでしょう。
「叙景に優れる」「素晴らしい叙景だ」というように、風景について書かれた文章、とくに詩歌の分野に明るい言葉です。
和歌や短歌など歌の分野においては「叙景歌」、詩作の分野においては「叙景詩」というカテゴリ分けがなされています。
「叙景」を使った例文
それでは「叙景」を使用した例文とその解釈を見ていきましょう。
いくつか例文を見ていくなかで、「叙景」という言葉が腑に落ちていきます。
「叙景」の例文1
「優れた叙景詩は、同時に優れた叙情詩であることが多い」
「叙景詩」は、目の前にある景色を客観的に描く詩の方法である、と広義にはいわれますが、人間が作り出す詩である以上、そこに作者の心情や思いが込められていることもあります。
なぜなら、その景色を見る人物が、どのような境遇にあるかなどで、同じ景色でもどのように見えるかが違ってくるからです。
「叙景」の例文2
「昨年、大きな賞をとったあの作家は、エンタメ性の強い作風で定評があるが、その根底を支えているのは目に浮かぶような叙景にあると、講評されていた」
小説の分野では、説明というのは必要なく、描写と人物の発言(台詞)が物を言うといわれています。
描写には、登場人物がどのような状況にあるかを書く情景描写や、どのような心理状態にあるかを書く心理描写がありますが、そのなかで大事なものの一つに叙景(風景の描写)が含まれます。
降っている雨が主人公の悲しみを示している、などというものが分かりやすい例でしょう。
「叙景」の例文3
「叙景歌集を出すに至ったのは、叙情的なものばかりを描いてきたからだ、と序文にあった」
「叙景歌」は、別の呼び方では「写生歌」とも言われるほど、写実性を求められる分野だといいます。
主観的な作風をこれまでしてきた作家にとって、客観的なものを作る、というのは新たな試みであり、大きな冒険といえるかもしれません。
詩歌を学ばれたり、趣味として作っている方などは、いつも自分の作るものが似ている、と飽きを感じたときには、自分の作風がどのようなものかを俯瞰し、その枠をこえたものを作ってみると面白いかもしれません。
「叙景」の例文4
「都会で育った作家は総じて叙景に苦しむと聞いた」
自然を描くためにはやはり、どれだけ自然を見てきたか、というところが重要になってくるのかもしれません。
古い作家ですと、大きな日本家屋に住んでおり、庭先に樹木が植わっていたり、四季折々の植物を愛でていたかもしれませんし、そうでなくとも近場にいくらでも植物の姿があったのではないかと思います。
植物を効果的に扱えるようになると叙景の腕があがりますので、叙景を学びたい、という方はまずは、身近な草花に目を向けるところからはじめるといいでしょう。